私が高校出てしばらくくらいだったの話だと思う。
たしか成人はしてなかった。
その頃、私はひとり旅にはまっており、その日は一人で天橋立に行った。
旅は大満足。
天橋立の雄大な景色と、その付近のお茶屋さんのお団子は特に思い出に残っている。
宿もとってなかったので、暗くなる前に大阪の家に帰ろうと駅に急いだ。
天橋立発福知山行きの列車に乗ったが、腹が痛くなり途中駅で降りた。
用を足し、夕暮れのホームで次の列車を待つ。
列車がホームにやってきた。
ホームに近づくにつれて減速する列車。
その窓から見える車内の様子にぎょっとした。
ここはかなり田舎の路線。
乗客なんてまばらなはずなのにもかかわらず、車両の連結部分とその周辺だけ、さながら大阪環状線や御堂筋線の通勤ラッシュのように混雑していたのだ。
そして座席が空いているにも関わらず、皆一様に立っていたのだ。
列車なんて1時間に1本くらいしかこない駅。
見逃すなんて選択肢はなかった。
混雑部分以外はすいていた。
もちろん座席もあいていた。
その謎の団体から一番離れた席に腰を掛けた。
あきらかに多数を視線を感じる。
寝たふりを決め込んだ。
うつむいて目を閉じる。
遠くからだんじりを練習する音が聞こえる。
多数の気配がこっちにやってくる。
皆なにやらぶつぶつ喋っている。
声が小さく不明瞭で何を喋っているかは聞こえない。
でもなんとなく誰かへの恨みや社会への恨みであることは聞き取れた。
気配が私の前を通過して過ぎ去っていく。
目を閉じていた時間にして数分だとは思うが、私にとっては何時間にも思えた。
気配が消えたのでゆっくり目を開けてみる。
いたって普通の夕暮れの車内風景。
あの団体はどこかへ消えていた。
まもなく福知山駅に到着するというアナウンスが流れた。
夢だったのか現実だったのかいまだにわからない話。